「聞く力」を持つ、忍耐強いリーダー
岸田文雄氏の著書「岸田ビジョン 分断から協調へ」(2020年 出版)を読みました。
前半は、政治家として岸田氏の考える政策や、日本の課題について書かれており、
後半は、人物像にフォーカスし、生い立ちから政治家への歩みが記されています。
この本、後半が圧倒的に面白い。
ニューヨークでの差別、東大受験に3回失敗、銀行員の5年間、そしてビールケースに立ち続けたドブ板選挙と、意外なエピソードがてんこ盛りです。
極めつけは、宏池会の権力闘争が書かれた「第六章・闘う宏池会」。
加藤の乱が、岸田氏の視点から描かれており、必見です。
私がテレビで見た限り、スマートにメガネの似合う岸田さんはクールで淡々とした政治家に見えました。
声を荒げたり、感情を露にする姿を見た記憶がなかったからです。
ただ、本を読み終えて、岸田さんのイメージが変わりました。
岸田さんは、感情を抑え、我慢強く努力してきた「忍耐の人」だと思います。
そんな岸田さんが唱える「分断から協調へ」と「新しい資本主義」とは何か?
私なりに説明したいと思います。
「分断から協調へ」とは何か?

「分断から協調へ」とは、具体的に何を指しているか?
これは、「世代間の助け合いから、負担能力に応じた助け合いに変える」ことです。
現代の社会保障の仕組みでは、若い世代の負担が大きい。
そこで、年齢で負担を決めるのではなく、能力に応じて応分の負担をしてもらうという考え方です。
この本が出版された時点では、75歳以上の医療費負担は一律で一割でした。
2022年度から、一定の所得がある人は二割負担になります。
さらに、2024年9月13日に閣議決定された「高齢社会対策大綱」では、75歳以上で医療費を3割自己負担する対象者を広げることを検討しています。
内閣府の資料では、
・年代別の金融資産は、この20年間で60歳以上の保有割合が倍増。
・個人金融資産 約1,700兆円のうち、60歳代以上が約6割(約1,000兆円)の資産を保有
とありました。
この状況で、若い世代に一律で社会保障の負担を押し付けるのは、どう考えても不公平です。
【出典】年代別 金融資産保有残高について(内閣府)
https://www.cao.go.jp/zei-cho/shimon/27zen28kai7.pdf
2018年と比較して、2040年には介護費用は2.4倍、医療費は1.7倍、年金支給額は1.3倍に膨れ上がると試算されていることからも、待ったなしの政策と言えるでしょう。
「新しい資本主義」とは何か?

もうひとつのスローガン「新しい資本主義」についても説明します。
これは、一言でいうと「成長戦略」です。
成長戦略のキーワードは4つあります。
【成長戦略のキーワード】
1.中間層、中小企業
2.データ、デジタル化
3.地方、地域
4.イノベーション、研究開発
です。
アベノミクスは、金融緩和・財政出動・成長戦略=「三本の矢」がポイントでした。
結果、7年間で正社員の数が170万人増え、65歳以上の高齢者の雇用も225万人増えるという目覚ましい効果がありました。
ただし、課題も残ります。
大企業の業績回復による経済効果が、中小企業や非正規雇用の人々にまで波及する「トリクルダウン」が期待されていたのですが、現状は、富裕層にのみ恩恵が偏っているというのです。
そこで、岸田氏の重視する4つのキーワードを軸に成長戦略を練り直したのが、「新しい資本主義」というものでした。
【出典】新しい資本主義(首相官邸)
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/seisaku_kishida/newcapitalism.html
首相官邸のウェブサイトでは、ページ数が多すぎて、ちょっとわかりづらいかもしれません。
この本「岸田ビジョン 分断から協調へ」は、シンプルで文章量も少ないのでおすすめです。
「岸田ビジョン 分断から協調へ」読書後の感想
この本を読んで、岸田文雄氏のイメージはグッと良くなりました。
2015年12月28日の慰安婦問題日韓合意「最終的かつ不可逆的な解決」を取りまとめる。
2016年4月G7外相を原爆ドームに案内。
2016年5月オバマ大統領を広島平和記念資料館に案内
など、岸田さんは多くの外交で大活躍されています。
約3年間、日本のトップを務めるのは、本当に大変だったことでしょう。
私は心から感謝したいと思います。
最後に、「岸田ビジョン 分断から協調へ」を読んで興味深く思ったことをまとめておきます。
・6歳からニューヨークで暮らし、人種差別を受けた
・防衛大臣を務めた岩谷毅さんとは学生時代からの友人
・日本長期信用銀行で5年間の社会人経験
・慰安婦問題日韓合意「最終的かつ不可逆的な解決」をまとめた
・オバマ大統領を広島平和記念資料館に案内
・加藤の乱の強烈なエピソード(必読です)
本書「岸田ビジョン 分断から協調へ」、ぜひ手に取ってみてください。
本の目次
はじめに
第一章 分断から協調へ
「47歳」の日本
新しい資本主義に向けて
緩和の限界
地方再生と財政の持続可能性
中間層の底上げを!
大企業と中小企業・小規模事業者の共存
データ駆動社会
いまこそ「田園都市構想」
令和の時代の農業
地方発世界行き
国立大学の復活を
持続可能性と三つの視点
環境問題のリーダー国に
個性を生かすワンチーム
第二章 ヒロシマから世界へ
賢人会議
勝者なき戦争
中国と核
朝鮮半島有事に備えよ
ソフトパワー外交
自由・民主主義・人権の尊重・法の支配
憲法九条と現実の狭間で
韓国の「国民情緒法」
広島の一番長い日
「フミオが言うなら」
黒い雨の記憶
第三章 「信頼」に基づく外交
愛犬ベン
酒豪の外相
対ロ交渉の舞台裏
王毅外相の「能面」が緩んだ瞬間
吉田ドクトリンの後継者
第四章 人間・岸田文雄
ニューヨークでの出会い
行きは五人で帰りは六人
開成高校野球部の青春
野球から学んだチームプレー
東大とは縁がなかった
三度目の失敗
早大時代の「校外活動」
「空飛ぶ棺桶」で出張
クリスマスの「プレゼント」
仁義なき選挙戦
建設省を敵に回した
歩いた家の数しか票は出ない
自民党の「集金係」に
第五章 「正姿勢」の政治
選挙に強い「秘伝のタレ」
「一区」で勝ち抜くことの難しさ
大連一の高級デパート
宮澤喜一さんの金言
「野党議員」としてのスタート
ビールケースに立ちつづける
ピラミッド型選挙は通用しない
大逆風
たった二人だけの生き残り
第六章 闘う宏池会
「お公家集団」の権力闘争
「一本釣り」の波紋
失言が招いた惨敗
「永田町のプリンス」加藤紘一氏
固めの盃
「あなたは大将なんですから」
屈辱のピエロか、悲劇のヒーローか
「反乱軍」残党の処遇
小泉政権誕生と「加藤の乱」
ドライマティーニの会
関連リンク
岸田文雄 公式サイト:季刊誌「翔」のPDFファイルが興味深い。活動報告一覧も必見。
岸田文雄 YouTube:古い動画順にチェックするのがおすすめ。メガネをかけていない岸田さんに注目。
岸田文雄 X(Twitter):フォロワーは83万人超。総理大臣の激務ぶりが伺える。
岸田文雄 Instagram:写真でわかる岸田氏の政治活動。コメント欄は荒れ模様。