「日本よ、完全自立を」:混迷の時代における石原慎太郎の遺言
2018年に発行された石原慎太郎著「日本よ、完全自立を」(文藝春秋)は、政治家、作家として長年日本の第一線で活躍してきた著者が、その晩年に至るまで抱き続けた日本への危機感と、未来への提言を力強く示した一冊です。
混迷する世界情勢と日本の針路
本書では、イスラム過激派組織によるテロの頻発や、中国の台頭、アメリカの指導力低下など、21世紀に入り世界が大きな転換期を迎えている現状が鋭く指摘されています。こうした混迷の時代において、日本は「白人による支配と略奪の歴史」を直視し、真の独立国家としての道を歩むべきだと著者は訴えます。
尖閣問題への強い危機感
特に著者が強い危機感を抱いているのが、中国の脅威です。尖閣諸島への度重なる領海侵犯や、反日デモの扇動など、中国の覇権主義的な行動に対し、日本は毅然とした態度で臨むべきだと主張します。そのために著者は、日本製ミサイルの保有や、日米安保条約に基づくアメリカの強力な支援[8]の必要性を訴え、同時に「まず日本人自らが戦う覚悟を示す」ことの重要性を強調します。
中央官僚支配体制への痛烈な批判
国内問題では、硬直化した中央官僚支配体制への痛烈な批判が展開されます。著者は、中央官僚の独善性や、前例踏襲主義を打破し、地方分権を進めることで、より柔軟で、国民のニーズに合致した政治を実現すべきだと主張します。
新憲法制定への強い思い
そして、こうした日本の現状を打破するために、著者が提唱するのが新憲法の制定です。現行憲法は、日本が敗戦後、アメリカによって一方的に押し付けられたものであり、日本の伝統や文化を反映していないと著者は批判します。例えば、憲法前文の「公正と信義に信頼して」という一文の「に」という助詞の誤用を指摘し、日本語として不自然であるばかりか、日本人の精神性に反するものであると断じています。著者は、日本人が自らの手で、真の独立国家にふさわしい憲法を制定するべきだと訴えます。
まとめ
「日本よ、完全自立を」は、石原慎太郎が生涯をかけて訴え続けた日本のあり方、そして日本人の進むべき道を示した書です。 尖閣問題や憲法改正など、現代日本の抱える問題について、著者の歯に衣着せぬ発言の数々は、時に物議を醸すこともありました。しかし、その根底にあるのは、混迷を深める国際社会において、日本が「完全自立」を果たし、真に独立した国家として、世界の中で輝き続けることを願う、著者自身の強い愛国心から来ています。
本の目次と要約
第1章 トランプの登場と白人支配の終焉
- 自人ファースト再来の危うさ:歴史的に繰り返されてきた白人による支配と略奪の歴史を振り返り、現代社会におけるアメリカの動向、特にトランプ政権の政策が孕む危険性について論じる。
- 白人による支配と略奪の歴史:バチカン公文書に見られる有色人種蔑視を例に、ルネサンス以降の白人優位社会の形成と、その支配構造が現代社会にも繋がることを指摘する。
- オリンピック招致運動の屈辱:東京オリンピック招致運動を通じて目の当たりにしたIOCの腐敗と不条理を告発し、スポーツ界における白人中心主義の現実を批判する。
- 日本製 の飛行機を:かつて日本が計画したアジア製旅客機の構想がアメリカの妨害で頓挫した経緯を紹介し、資源の乏しい日本の活路は高い技術力と経済力に基づいた戦略にあると主張する。
- 「完全自立への道標」:憲法改正論議の必要性を訴え、日本人が自国の歴史と伝統を深く理解し、国家の主体性を確立することの重要性を説く。
第2章 中国との闘いは終わらない
- 尖閣諸島という国難:尖閣諸島問題の背景と現状を、自身の経験を交えながら解説し、日本政府の対応の遅れを批判する。
- 総理は尖閣に行ってほしい:韓国大統領の竹島上陸と比較し、尖閣諸島問題に対する日本政府の姿勢を批判し、国民の生命と財産を守るために必要な行動を示すよう強く求める。
- 地球温暖化の脅威:地球温暖化による海面上昇の深刻さを訴え、目先の利益にとらわれず、人類の未来のために危機感を共有し行動を起こす必要性を訴える。
- 国を変え、日本人を変える:東京都知事時代の経験を踏まえ、中央官僚の弊害と政治の劣化を指摘し、日本が抱える根本的な問題点と改革の必要性を訴える。
- 「蟻族」と「鼠族」を使っての反日暴動デモ:尖閣諸島購入計画を巡る中国側の反応、特に反日デモの扇動と威嚇行為の実態を明らかにし、中国の覇権主義を批判する。
- 他国の領土を掠め取るのはシナの常道:チベットやウイグルなど、中国による周辺国への侵略の歴史を指摘し、国際社会のルールを無視する中国の姿勢を非難する。
- 日本よ、まず自ら立ち上がれ:尖閣諸島問題を解決するために、日本がまず自主防衛の意識を高め、毅然とした態度で中国と対峙する必要性を訴える。
第3章 今こそ新憲法を作れ
- 白人による支配と略奪の歴史:イスラム国の台頭を例に、現代社会の混乱の根底にある白人中心主義の歴史を振り返り、その問題点を指摘する。
- 二人 の朴さん:韓国の朴正熙元大統領、朴槿恵元大統領との個人的な交流を振り返りながら、日韓関係の過去と現在、未来について考察する。
- 白人の世界支配は終わった:過去の新聞記事や自身の経験を基に、白人中心主義の歴史と、現代社会におけるその終焉を宣言する。
- 醜い日本語の憲法:日本国憲法の前文に見られる日本語の誤用を指摘し、他国によって押し付けられた憲法の不完全さを批判する。
- 横綱の張り手:相撲における張り手を例に、日本文化の精神と伝統の継承の重要性を説く。
- 尖閣をどうするのか:尖閣諸島問題に関する国民へのメッセージ。
- 日報問題には古く深い根がある:自衛隊の日報問題を例に挙げ、自衛隊の交戦規定の曖昧さ、そして憲法9条の問題点を指摘する。
- 気の毒な日本の自衛隊:自衛隊員の事故や海外派遣の危険性を指摘し、憲法9条の矛盾と、自衛隊を取り巻く厳しい現状を訴える。
- 憲法に問われる国家の主体性:ドイツの敗戦処理との比較から、日本国憲法が抱える問題点、特に国家の主体性に関する問題点を指摘する。
- 慰安婦、靖国、朴正熙:靖国神社参拝、従軍慰安婦問題、東京裁判など、現代日本の歴史認識に関わる問題について、自身の見解を述べる。